【拍手お礼小話1】リコからのプレゼント(第二章読後推奨)

 

「ふぁーぁ……」

夕食後、リコが大きな欠伸をしたところを目撃したリーズ。

「どしたのー。欠伸なんてしちゃって?」

今日のリコはいつになくカワイイ。
毎日カワイイけれど、少し眠そうでぽやーんとした表情が、小動物のようだ。
思わずなでなでしたくなるリーズだが、アレクとは違いその一歩が踏み込めない。

「あ、リーズ」

すっかり打ち解けて、お兄さんポジションに納まったリーズに、リコは無邪気な笑顔を返してくれる。

この笑顔が見られるなら、いっそ一生お兄さんでもいいな……。
万が一、あの兄とリコが上手くいって、弟になるのも悪くないかも……。

リアルに想像しかけて、うっかり泣きそうになるリーズ。
リコは、そんなリーズには気づかず、何か企んでいるのか意味ありげに含み笑いする。

「ね、リーズ。後で渡したいものがあるから、部屋に来てくれる?」

じゃあねと手を振って走り去ったリコの、ちょっと恥ずかしそうな表情。
あんな顔をするリコは、初めて見た。

リーズは、思わず自分の頬を指で抓った。
うん。ちゃんと痛いぞ。

痛い……

「イタタタタッ!」

いつの間にか背後に忍び寄っていたアレクが「お兄ちゃんが手伝ってやろう」と、頬にくっきり痕が残るほど、リーズの頬をひねり上げてきたので、リーズは夢見ごこちから一気に脱出した。

 * * *

ノックの音が、2回。
控えめに鳴らされる音から、リーズに違いないなとリコは思った。

「どうぞ、入って」

リコが声をかけても、ドアはなかなか開かない。
ドアの前で躊躇している姿がイメージできて、リコは微笑みながらドアを開けてあげた。
案の定、少し緊張した様子のリーズが、猫背を丸めて俯いている。

「たいした用事じゃないの。すぐすむから」

どうぞと招き入れて、リコは机の椅子を引いた。
リーズはおとなしくそこへ座る。
狭い客室には椅子が1つしかないので、リコはベッドへと腰掛けた。

リーズはずっと俯いて、手のひらを握ったり開いたりと、落ち着かない様子。
自分に与えられた部屋と置いてある物は全部一緒なのに、リコの部屋というだけで特別甘い香りがするようでドキドキのリーズだったが、リコはまったく無頓着だ。

「ど、どーしたの?俺に何かくれるって……」

リコは、うふふと含み笑いすると、ベッドの枕の奥に置いてあった小さな包み紙をリーズに渡した。
手のひらにすっぽり納まる程度の包み紙を受け取ったリーズは、この部屋に入ってから初めて顔を上げた。
なんとなく、糸目がいつもより垂れているように見える。
きっと喜んでくれているのだろう。

「ね、開けてみて?」

リコが微笑むと、リーズは何度もうなずいて、丁寧に包みを解いていく。
紙が破れないように気を使ってくれているのが、またリーズらしい。
そのせいで、思うように作業は進まないのだけれど……


『ダーリン、それもうビリッと破っちゃえばいいのにゃ!』
『なんならあたしが、ビリビリのボロボロに……』


「猫ズ、お前ら黙ってろって言ったよな?」


グッと口を噤んだスプーンズ。
普段穏やかなリーズだが、リコという女のことが絡むと、急に”ご主人様”らしくなる。

このリコという女、まったくもって気に入らない。
ダーリンの気持ちをいつも弄んで、優しくされても大切にされても気づかないし。
同じ片思いをするなら、光の乙女のほうが(ちょっと変だけど)美人だし髪キレイだし、まだ許せるのに。

なんで、ダーリンはこの女が好きなの?

何度もそう聞いたし、諦めるように言ったのに、ダーリンは「そうだよな、不思議だよな。でも俺が好きになる女の子って、みーんなアレク兄さんのこと好きになっちゃうんだよな……」なんて切ないこと言うから、ついつい「ガンバレ」って応援してしまうのよね。

スプーンズは、ご主人様に聞こえないようにため息をついた。

 * * *

ようやく開かれた、小さな包み紙。
中から出てきたのは……

「リコ、あの、これは……」

指人形。

……の、失敗作?

リーズは、2つの小さな布着れを、指でそっと摘んだ。
少し力を入れたら破れてしまいそうな、もろい縫い目だ。

「あのね、これ猫ちゃんに作ったの。お洋服!」

えへへと照れ笑いするリコ。
どうやら、サラの戦闘服を縫ったときに、あまりにもナチルが上手だったので、一念発起したらしい。
意外とぶきっちょなリコが、何度も作り直しながら夜なべして縫い上げたのだろう。
針で指を突きながら、懸命に縫い上げるリコの姿が思い浮かんで、リーズは胸が熱くなった。

「ありがと、リコ。ほら、お前らもお礼言えよ?」

リーズのポケットから取り出されたスプーンズは、リーズの手のひらの上で立ち上がると、しばらくもじもじゆらゆらと動いた後、小さな声で『ありがとにゃ』と言った。

ちょうど旅のマントのような、フードのついたワンピース。
フードの上には、小さな猫耳と、背中にはチョロリと尻尾がついている。
胸のあたりには、金と銀のリボン。

それぞれの色のワンピースを着せてあげると、スプーンズは何も言わないものの、嬉しそうにくるくる回転している。
ああ、もうすでに尻尾が取れそうだから、後で補修してあげなくちゃ。

「やっぱり可愛いっ。また今度市場で布を買ったら、作ってあげるね!」

リーズは、リコの快心の笑みに、どうしようもなく愛しさがこみ上げた。
定位置のポケットに戻ったスプーンズも、その笑顔にいつもの憎まれ口を封印されてしまったようで、そわそわしている。

邪魔者は、誰もいない。

これって、チャンスかもしれない……

今こそリコに、俺の気持ちを……!


「もっと上手になったら、アレクに何か作ってあげたいなぁ……そのときは、また相談に乗ってね?」


リーズの気分は、一気に天国から地獄へ。

おしゃべりなスプーンズも、このときばかりはご主人様を慰める言葉が出てこなかった。

 

【後書き】ほのぼの閑話……やっぱ書きやすいっす。リコもなんだかんだ小悪魔ですわね。サラに毒されたのかも。スプーンズ、さみしい床下収納期間が長かったせいか、人から寄せられる好意に弱いです。しっかりリコに気を許しちゃってます。「べっ、別にあんたの作った服を気に入ってるわけじゃ……」みたいなツンデレ発言しつつ、洋服のレパートリー増やしていくことでしょう。ああほのぼの。

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